米軍でさえ、説明できなかった── 公開された空の“未解決”に寄せて
堀 大河
私、堀大河は、世界の辺境を歩き、人がまだ名づけられずにいるものばかりを追いかけて生きてきた。だから、2026年の夏に飛び込んできた報せには、思わず手が止まった。
アメリカが公開したUAP、いわゆる未確認異常現象の記録の中に、背筋の寒くなるような一件があった。とある科学誌が伝えたところによれば、2002年、アフガニスタン上空を飛んでいた米軍のパイロットが、頭上を巨大な物体が通り過ぎるのを目撃したという。大きさは、およそ152メートル。正三角形のような形。音もなく、光もなく、ただ星々を、順に黒く塗りつぶしながら滑っていったとされる。パイロットは「星が、消えていくように見えた」と語ったと記録されている。隣に乗っていたもう一人も、それを見て、こう尋ねたそうだ。「今の、見たか」と。

私が唸ったのは、その光景の不気味さだけではない。訓練を積んだ二人の軍人が、同じ「わからないもの」を見て、互いに確かめ合った。その事実のほうだ。
さらに、2021年にはオマーン湾で、特殊部隊が二十数個の物体を観測したとも伝えられる。赤外線に「冷たい球体」として映り、こちらが主砲を撃った途端、逃げるように飛び去った、と。むろん、これらが宇宙から来たものだと決まったわけではない。米政府の調査機関も、「地球外の証拠は確認されていない」という立場を崩してはいない。

だが、と私は思う。真贋を見極めることを生業としてきた私に言わせれば、世界でいちばん恐ろしいのは、「怪物がいる」と言い切る者ではない。「これが何なのか、私にはわからない」と、正直に記録し、保管し続ける者のほうだ。強大な軍が、七十年以上ものあいだ、答えの出ない記録を捨てずに抱えてきた。その慎重さのほうが、よほど雄弁に、「空には、まだ何かがある」と告げている気がしてならない。
わからないものを、わからないまま、恐れずに見つめること。それは、私が長い旅の中で身につけた、たった一つの作法でもある。
思えば私は、これまで世界の様々な土地で、同じような話を聞いてきた。砂漠の遊牧民から、南の島の漁師から、山深い村の古老から。彼らは判で押したように、夜空に「あるはずのない光」を見た、と語った。学者は笑うかもしれない。だが、文字も持たぬ土地に代々語り継がれてきたその話と、最新の軍事センサーが冷たく捉えた記録とが、奇妙にも同じ方角を指し示しているように、私には思えてならないのだ。太古の人間が肉眼で見たものと、現代の機械が計測したもの。その二つが出会う場所にこそ、本物の謎は潜んでいる。
了
2026年09月09日
